’04 アメリカ ヴィオラ・ダ・ガンバ協会大会 報告

野口真紀
 7/25〜8/1の一週間にわたり開催された、アメリカ ヴィオラ・ダ・ガンバ協会主催「コンクレーブ2004」についてご報告いたします。

  「Something Old, Something New, Something Borrowedノ and Some Blues」(古いもの、新しいもの、借りたもの、青いもの、を結婚式で身につけた花嫁は必ず幸せになるというヨーロッパの古い言い伝え・・・のパロディー)というテーマのもと、ジェンキンズやパーセル、ロウズなどイギリスのコンソートを弾くクラスをはじめ、マドリガル、フランスの舞曲、バッハ、中世の音楽、テクニック、インプロヴィゼーション、マスタークラス等々々ノ実に57もの講座が開講されました。講師は日本から招かれた神戸愉樹美氏を含め21名。今回は特に、Something New=現代曲がクローズアップされ、それが特色となっていました。日本のガンバ協会会員でもあるD.ローブ氏と他1名の作曲家がいくつかの講座を受け持ち、受講者(もちろんガンバ弾き)の作品にアドバイスしたり、また別のクラスでは講師の新作を弾き、皆でディスカッションしたり。The New York Consort of ViolsのJudith Davidoff氏、そして神戸愉樹美氏も現代曲のクラスを開講しており、受講者の評判も上々のようでした。

放課後(?)もまた、楽しいイベントが目白押し。フリーコンソートはもとより、講師による日替わりの公開講座、コンサート、パネルディスカッション、受講生発表会、パーティー、はたまた遠足(これは希望者のみ)まで、盛り沢山の日々でした。今年のコンサートの目玉は、The New York Consort of Violsの「Something Old, Something New」。その名の通り現代曲と古典曲を交互に配したプログラムで、現代曲には今回の講師2名の作品とアメリカ・ヴィオラ・ダ・ガンバ協会が主催するレオ・トレーナー作曲コンクールの過去の入賞作品をとりあげ、この協会の足跡を示すものとなっていました。この他にも、Ruby Gamba(エレキガンバです。何ともアメリカらしい)の紹介を兼ねたジャズライブ、D.ローブ氏がペンを篠笛に持ち替え神戸愉樹美ヴィオラ・ダ・ガンバ合奏団と共演した作曲家プロデュースのコンサート、Old=古典曲とNew=現代曲だけじゃ幸せな花嫁になれない!?と借りもの=鍵盤曲等とブルースも取り入れプログラムに変化をもたせた神戸愉樹美ヴィオラ・ダ・ガンバ合奏団のコンサート、などがありました。

イベントは毎晩9時頃まで行われるのですが、その後もあちらこちらでコンソートコンソートコンソート!しかも日を追うごとにその数は増す一方です。私も眠い目をこすりながら夜な夜なコンソート三昧。イギリスのコンソート曲あり、日本の現代曲あり、作曲クラス受講者の作品あり、その講師の作品あり、とこちらも盛り沢山でした。

今年の参加者は講師・スタッフを含め150名余り。アメリカ本土だけでなく、ハワイ、カナダ、イギリス、オーストラリアからの参加があり、日本からも6名が参加しました。そのうちの一人から、臨場感溢れる文章が寄せられましたので、以下に併載いたします。
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山森晶子
Q:山森さんは今回おもしろい体験をしてきたとか・・・

A:はい、米国ガンバ協会主催のサマースクールに7/25より1週間参加して参りました。WA州タコマ市にある大学の施設をお借りしたのですが、この施設が素晴らしい。創立100周年を越える由緒ある大学で、全建物レンガ作り、その周りには蔦の葉が絡まり、芝生は毎晩スプリンクラーで自動噴霧され、夏休み中だというのに毎日落ち葉掃除のおじさんが出勤しているという、とても手入れの行き届いたおしゃれな大学でした。我々は学生寮に滞在しましたが、1人1部屋で真新しいリネンが配給され、窓を開けると爽やかな風が流れてきて・・・自分の部屋より快適(笑)でしたね。日本は猛暑の真っ只中でしたし。。。

Q:レッスンはどんな形で行われるのですか?

A:申込書と一緒に時間割が送られてくるので、その表を見ながら自分の取りたいクラスをレベルと併せて第三希望まで前もって登録します。最終的にどのクラスになるのかは、当日まで分かりません。

Q:じゃ、もしかしたらクラスに入って「あら、あなたも一緒?」なんてことが

A:まさにその通り。1時間目のクラスに行ってみたら「な〜んだ、一緒だったのね」なんて。で、皆さん同じようなレベルの人が集まっているので、3時間目にまた朝と同じメンバーに出会ってしまったり。。。でもそれがきっかけで友達になれたりするんですよね。

Q:自分の思ってた内容と違った場合、クラス替えの余地はあるのですか?

A:その点、さすがアメリカ!と思いました。先生のメンツをつぶさないように事務局との間で密かにクラス替えが行われるのです。125人の生徒全員が満足いくようにアレンジするのですから、事務局は大変でしょうけどね。

Q:授業はもちろん英語?

A:もちろん。good morning!から始まりsee you tomorrow!まで全て英語。でも全然平気でした。というのも、先生方も日本人と分かっているせいか、分かりやすく1語1語しっかり発音してくれて、大事なこと、例えば「何小節目から」とか、「2分音符1拍で」等大事な部分はちゃんと2回繰り返して言ってくれます。後はニュアンスとノリで乗り切る(笑)。アメリカ人は日本人以上に明るいし、細かいことは気にしないので、適当に笑っていればなんとなく通じ合えます。こんなにfriendlyな人種なのになぜイラク戦争?「華氏911」アメリカ滞在中に見に行きましたが皆大爆笑、映画終わっても拍手なりやまずでした。あっ、論点ずれましたね、すみません。ただ、最低限必要な言葉、いわゆる音楽用語、例えば小節=BAR、は前もって準備しておくと当日焦らなくてすみます。これは今後サマースクール参加する方へのご忠告ということで。

Q:先ほどアメリカ人は明るいし、細かいことは気にしないとのことでしたが、それは音楽の面でも同じでしたか?

A:うーん、難しいな。。。答はYesでもありNoでもあり。

Q:じゃ、まずYesから

A:一般的に日本人は”集団行動・協調・侘び寂びの世界”、アメリカ人は”個人主義・自己主張が激しい”というイメージがありますが、一緒にコンソートしているとまさにそうだなと感じる事が多々ありました。音楽の中にも主と従の関係があって聴かせどころは「弾く」けど補完的な場所では「引く」ものと私は思ってました。でも彼らは常に自分中心的な弾き方でどの音もしっかり弾いちゃうんですよ。「オレに着いて来い」といわんばかり、周りを気にせず自分の世界に入っちゃうので落ちることはまずない、どんな曲もちゃんと最後まで通っちゃいます。そして細かいことを気にしないので、最後さえきちんと合えば「うーん、名曲だ」なんて自画自賛しちゃう(笑)最初は圧倒されっぱなしでしたが、こちらも開き直ってガンガン弾いてたらだんだんは面白くなってきて、、、あれ?いつの間にか染まってますね。

Q:反対にNoの面では?

A:細かいこと気にしだしたら止まらないところ。下らない質問をひっきりなしにしてましたね。例えば「この場合の弓使いはUPかDOWNか」とか。そうしたら隣の人も「あたいの場合はどっち?」そうするとそのまた隣が「オイラは?」なんて具合に。指使いもそうでした。どの弦をどの指で押さえたら良いかがしばしば議論の対象でした。それを聞いてて日本人ってとても几帳面で真面目だなと再認識しました。今、私はK先生に教わっているのですが弓使いも指使いも基本中の基本、一番最初に習ったことです。その間、曲らしい曲は全く弾かせてもらえず、出来るまで同じ事を毎週毎週必ず注意されます。こちらも直そうと努力します。これを繰り返していくうちに自然と良い演奏法が身についていったのだと思います。今回アメリカへ行って「私、どの指で押さえたらいいのかわかんな〜い」「え〜、down downで弾くなんてありえな〜い」と発言せずにすんだことが、とても嬉しく、また誇りでもありました。

Q:授業以外はどんなことをして過ごすのですか?

A:人によってまちまちです。フリーコンソート、個人練習、日向ぼっこ、芝生で昼寝、読書、shopping(@early music shop)、デート(?)等々。それ以外にも毎日先生方のミニコンサートがあったり、イベントがあったりと、色々忙しいのであまり時間をもてあますことはなかったです。

Q:イベントってどんなイベントでしょう?

A:ある時はオークションが行われました。年代ものの楽譜や、先生の無料レッスン券等がその対象ですが、それは全て無料奉仕。で、落としたお金は若手ガンバ奏者の育成に当てるというボランティア精神溢れるとてもアメリカらしい発想だなと思いました。オークション会場ではお皿一杯のイチゴとシャンパンが提供され、それを飲みながらユーモアな司会に耳を傾けるという何とも優雅なひと時でした。別の日はインノミネの生い立ちとその構造についてのトークだったり。英語なので全ては理解できませんが、その雰囲気に浸れれば、またなんとなく理解することが出来れば十分楽しめるものです。

Q:最後に一言どうぞ

A:今回参加して気付いたことは、皆evenであるということです。先生のことも皆first nameで呼び合い、人種・歳の差もなく、レベルも関係なく、ガンバが好きな人全員が楽しめるそんな場所でした。新聞もテレビも電話もない。今日は何日、何曜日?周りで何が起こっているかわからない。唯一持っているのは自分のはめている腕時計のみ。出来ることといえば、ガンバを弾くか、聴くか、食べるか、寝るか。こんな素晴らしい環境の中、贅沢な時間を過ごせてとても幸せな夏休みでした。皆様ももし、機会があったら一度参加されてはいかがでしょう。

<日本ヴィオラ・ダ・ガンバ協会会報No.114 Sept.20,2004より転載>